My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
甲板に出てそんな空との境界がわかり辛い海を見渡してみるが他に船のような影は見えない。それに耳に入ってくるのは船に当たる波音と船体の軋む音だけで歌声なんて聞こえなかった。
「ごめんね、やっぱり気のせいだったみたい」
そう謝ったときだ。セリーンがぱっと船尾の方に視線を移した。
「誰か来る」
「え!?」
ぎくりとしてそちらに意識を向けると確かに足音が近づいてくる。
セリーンが剣の柄を握るのを見て私はその後ろに隠れた。
(まさか幽霊? で、でも、幽霊だったらきっと足音はしないだろうし、じゃあ――)
「うえっ!?」
私たちの前に現れ素っ頓狂な声を上げたのは、乗組員の帽子を被った男の人だった。
なんだぁ、と大きく胸を撫で下ろしているとセリーンも剣から手を離した。
「ど、どうされたんですか。こんな夜中に」
彼は驚いたせいでずれてしまったらしい帽子を慌てて被り直しながら私たちに訊いた。