My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
――昨日、まだ海賊のことを隠していたリディや酒場にいた人たちが口を揃えて「何にもない小さな港町だ」と言っていたことを思い出す。これまでもこの町に迷い込んでしまった人たちにはそうして誤魔化してきたのだろう。
(この世界には飛行機とか人工衛星なんてものは無いんだし)
このイディルのように知られていない場所はまだまだたくさんあるに違いない。
「セイレーンの秘境も、きっとそういうわかりにくい場所にあるんだよね……」
つい、そんな言葉が口から零れていた。
ハっと顔を上げると案の定リディが目を丸くしていて焦る。
「あ、ごめんね、また変なこと言っちゃって」
「カノン、やっぱり兄貴のお嫁さんにならない?」
リディにまたもそう真剣に言われてしまって、ラグの方から盛大な溜息が聞こえてきた。