My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
日没を合図に続々と集まってきた人たちであっという間に用意していた全ての席が埋まってしまった。座れなかった人は各々酒樽に腰掛けたり、地べたにそのまま胡坐をかいたりして、酒場周辺は一気にお祭り騒ぎになった。
昨日の海賊だけじゃない、おそらくは町中の人たちが集まって来ているのだろう。先ほど一緒に手伝ってくれた女の子のような小さな子供たちも5、6人楽しそうに辺りを駆け回っている。
その騒がしさに圧倒されながら私はラグとセリーンと一緒に隅の小さな丸テーブルで先ほどリディが運んでくれたジュースをちびちびと飲んでいた。
中には当然見覚えのある顔――海賊船でラグやセリーンに伸された者たちもいたけれど、やはりここでも“長のお墨付き”は効いているようで、むしろ私たちを見つけて「あの時はすまなかったなぁ」なんて声を掛けてくる人までいたくらいだ。
だが、まだグリスノートは現れない。
「まさか来ないってことは」
「いや、それはないだろう」
セリーンが指さした先、満席だと思っていたが一つだけ空いている席があった。丁度皆に囲まれる形になる場所。あそこがグリスノートの席なのだろうか。