My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「あれが“少し”か?」
セリーンの声がして振り返れば、彼女は心底呆れたような顔をしていた。
「『ふざけるな、退け』と、私には殺気すら感じられたがな」
「し、仕方ねぇだろーが!」
珍しく、焦るようにラグが弁解する。
「まぁ、お蔭でカノンが無事で済んだわけだが。リディも反省しているようだしな」
そう言ってセリーンは先を行くリディを見上げた。
「それは、……きっとリディ、びっくりしただろうね」
思わず顔が引きつってしまう。
「うるせぇな。いいからとっとと進め!」
「う、うん」
(――そっか、そんなことがあったんだ)
でも、リディのあの反応とは全く結びつかなくて、私はひとり首を傾げた。
海賊たちは明け方近くまで飲んでいたのだろうか、アジトである入り江は今朝もシンと静まり返り波音だけが響いていた。
白く綺麗な砂浜まで降りたときだ。
「遅ぇな。待ちくたびれたじゃねぇか!」
仁王立ちになったグリスノートが船の上から私たちを見下ろしていた。