My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「んじゃ、行くぞ。カノン」
「え? あ、はい!」
グリスノートに名前を呼ばれて、私は慌てて前に向き直る。
……リディのことは気になるけれど。
(私はお嫁さん……私はグリスノートのお嫁さん……の、ふり!)
そう呪文のように繰り返しながら、私はグリスノートとセリーンと共にその家に足を踏み入れた。
「誰だ」
殺風景な部屋の奥の方から低い声が響いてきた。
ごくりと唾を飲み込んで、私はグリスノートの後に続く。
彼は奥の部屋へと続く扉を軽く叩いて声を掛けた。
「俺だ。入るぜ」
「グリスノートか?」
少し驚いたような声が聞こえてきて、グリスノートがその扉を開けた。
彼はそのまま部屋の中へ入っていく。なんとなくその場で待っていると二人の話す声が聞こえてきた。
「何の用だ。お前がここへ来るなんて珍しいじゃねぇか」
「報告があってな」
「報告? なんだ。ついに嫁さんでも連れてきたか?」