My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
その後もしばらくオルタードさんへの感謝の声は止まず、
「お前らいつまでここにいる気だ! さっさと出航の準備に行け!」
そうオルタードさんが再び良く通る声で一喝し、漸く家の中は元の静けさを取り戻した。
大きく息を吐いたオルタードさんをリディが気遣っていると、グリスノートが徐に口を開いた。
「俺はこの旅で、この町が港町イディルとしてやっていくのに必要な何かを探してくるつもりだ」
それを聞くとオルタードさんは顔を上げた。
「なんだ、どこかよそと交易でも始めるつもりか?」
「交易!?」
リディが素っ頓狂な声を上げる。私も驚いた。
でも確かに、今まで奪ってきたもので成り立っていた町だ。代わる“何か”を見つけなければ、町の人たちは生活できなくなってしまう。
「それはまだわからねぇが……それまで、イディルは頼んだぜ」
オルタードさんが鼻で笑う。
「俺は引退した身だって言ってるだろうが」
「引退したってあんたはこの町の長だ。それは変わらねぇ。……リディのことも頼む」
「兄貴……」
リディの瞳が揺れる。