My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
 オルタードさんはしかしそれには答えずに大きく息を吐き、また怒鳴り声を上げた。

「もうおめぇも行け! 船長がいねぇと始まらねぇだろうが」

 グリスノートの目が大きく見開かれる。
 ――そうだ、もう彼は海賊の“頭”ではなく、“船長”なのだ。
 にぃっとワルそうにその口端を上げ、グリスノートは大きく頷いた。

「あぁ!」

 そして勢いよく家を飛び出して行ってしまった。
 追いかけようか迷っていると、

「兄貴、そんなことまで考えてたんだ」

そんなリディの力ない声が聞こえて私は足をとどめた。
 セリーンがふっと笑う。

「奴なら海賊稼業に変わる、何かでかい仕事を見つけてくるかもしれないな」
「え?」

 リディが小さく声を上げ、オルタードさんもセリーンを見上げた。

「私たちが乗った貨客船が襲われたと言っただろう。奴はその船に下っ端のフリをして乗り込んでいたんだ」
「兄貴が?」

 目を丸くするリディ。

「なんでそんなこと……」
「本来の下っ端の仕事である傭兵の手配を奴はしなかったようだ。単に戦力を削ぐのが目的だったのかもしれんが、一番血を流さずに効率よく荷物を奪うやり方でもある」
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