My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
それを聞いて驚く。――でも、あのときセリーンとラグがいなかったら、きっとろくな抵抗も出来ずにあっという間に彼らは荷物を奪い去っていっただろう。セリーンの言う通り、おそらくは一滴も血は流れなかったはずだ。
リディもぽかんと口を開けている。
「そんなことを思いつく頭と行動力があれば、本当にあっという間にこの町を“港町イディル”にしてくれるんじゃないか? 安心して隠居出来る日も近いな、オルタード」
セリーンに言われ、オルタードさんは自嘲気味に微笑み視線を落とした。
「いつまでも馬鹿げた夢ばかり追いかけている子供だと思っていました」
セリーンはそんなオルタードさんを優しく見つめた。そして。
「じゃあな、オルタード。この町のためにも長生きしてくれよ」
「セリーヌお嬢様……お会いできて本当に嬉しかった。お嬢様もどうかお気をつけて」
そうして深く頭を下げたオルタードさんにセリーンは苦笑する。
「だから、私ももうお嬢様ではない。傭兵のセリーンだ」
「いえ、私の中ではずっと、お嬢様はお嬢様のままです」
頑ななその声を聞いてセリーンは呆れたように短く嘆息し、そして私に視線を向けた。
「行くか」
「う、うん」
まだ呆けたように膝をついているリディのことが気になったけれど。
「――カノン、と言ったか?」
「え、あ、はい!」
急にオルタードさんに呼ばれびっくりする。優しい隻眼が私を見ていた。
「悪かったな。付き合わせてよ」
「え」
思わず間抜けな声が出てしまった。
(……もしかしてオルタードさん、ふりだって気づいてた……?)