My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
28.出航
「はぁ!?」
グリスノートがひっくり返ったような声を上げ、周囲にいた仲間たちも大きくざわついた。
「何言ってんだお前!」
「もう決めたの! 私も一緒についてく!」
――つい昨日、女は船には乗ってはいけないのだと話してくれたリディ。
(急にどうしたんだろう……)
皆が見つめる中、兄妹の言い合いは続いた。
「んなのダメに決まってんだろうが! 今まで通り、俺たちが帰ってくるのを大人しく待ってろ!」
「今までずーっと我慢してきたわ! でも、もう待ってるのは嫌なの!!」
これまで押し隠してきた感情を爆発させるかのような叫び声に、こちらも胸がぎゅっと締め付けられた。――ふいに思い出したのは、グリスノートの部屋の窓際にぽつんと置かれた寂しそうな人形。あれはきっと、家でひとり家族の帰りを待つリディ自身だ。