My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
街の外れ、切り立った岩山の麓にラグはまず私たちふたりを下ろしてくれた。
握られていた手が離れ、久しぶりの地面を感動を覚えながらしっかりと踏み締めていると、続いてラグが着地するのがわかった。
お礼を言おうと顔を上げたところで突然彼が怒鳴り声を上げた。
「もう離せ!」
「嫌だ!」
見ればセリーンがまだ小さくはなっていない通常サイズのラグの手を両手で握り締めていた。
その手をラグが振り払おうと必死になっている。
(なんか、すっごくレアな光景……)
「やっっと、この手で愛でることが出来るんだぞ!」
「ふざけんな! 誰のせいでこんな面倒なことになってると思ってんだ!」
そう怒鳴りながら、しかしみるみるその身体が縮んでいく。
危険を察したのだろうブゥが避難するようにポケットから飛び出てパタパタと私の方に飛んできた。
「だがお蔭であの男の手掛かりが見つかったのだろう!」
「こっの……っ」
嬉しそうに小さくなった手を引き寄せその身体を抱きしめようとしたセリーンだったが、
「本気で嫌いになるからな!!」
「うっ」
呻き声と共にぴたりとその動きを止めた。
(お?)
そしてゆっくりと肩を落としながらセリーンは小さなラグから手を離した。
(おぉっ!?)
思わずそんな声を上げてしまいそうになる。セリーンが小さなラグの言うことをきくなんて初めてじゃないだろうか。