My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5


「例の幽霊船が?」
「あぁ。ほら、その船から薄気味悪ぃ歌声が聞こえてくるって噂あったろう?」
「あー、あったあった」
「でな、最近どっかだかの港に銀のセイレーンが現れたらしいんだよ」
「え、銀のセイレーンって作り話じゃなかったのかよ」
「俺も聞いたときは驚いたさ。でだ、幽霊船の話を聞くようになったのも最近だろ? だからな、俺は幽霊船の正体はその銀のセイレーンなんじゃないかって考えたわけよ」
「おいおいやめてくれよ、俺今夜見張り番なんだって」
「夜風に紛れて歌声が聞こえてきたりしてな」
「勘弁してくれよ~」


 そんな怯えた声と笑い声とが席を立つ音と共に遠退いていった。
 小さく息を吐いて緊張を緩めながらふと気が付く。

(そういえば前にもこんなこと……)

「セデのときといい、お前は動揺し過ぎなんだよ」

 ラグの呆れたような視線で思い出した。そうだ、セデの食堂。あの時もこうして銀のセイレーンの噂を背後で聞きながらハラハラしたのだ。
 あの頃に比べたら少しはこういった状況に慣れてはきたけれど。
< 9 / 280 >

この作品をシェア

pagetop