短編小説集 (恋愛)
* * *
「ごめん私、別の人が」
「わかってます。咲真ですよね」
「好きなんだ」と続くであろう彼女の声を遮り理解を示す。
彼女の口から聞くのは1番嫌なんだ…。
黙り込む先輩を見てやっぱりそうなのかと改めて思い知らされる。
ズキンと胸が痛む。
「じゃあ」
「先輩っ」
「…っ!」
俺が去ろうとすると同時に彼女にご機嫌な声がかかる。
——咲真だった。
『若菜先輩って可愛いよね。涼ってあの子好きだったよね?』
『咲真』
『僕、狙っちゃおっかな♪』
彼女が好きなのは咲真。
それを知っている俺は彼女が幸せになれるならと告白してこの恋を終わりにしようと思ったんだ…。
でも、恋愛初心者の俺は知らなかった。
告白してすぐに恋を終わりにできるほど恋というものは甘くないということを…。
咲真はきっと告白するんだろう。
そして…、先輩と咲真は…。
ズキン、と。
想像するだけで胸が痛む。
これが、実際に見てしまったら俺の心はどうなってしまうんだろう…。
「っ!」
咲真と若菜先輩が話し始めたのを見て、俺は見ているのが嫌になってその場から走って逃げた。
途中、「廊下は走っては行けません!」と先生に注意されて、早歩きで向かった。
——屋上へ。
そこは、若菜先輩が大好きな場所。
一緒にそこで話をしているといつのまにか俺もその場所が好きになっていた。
急げ。急げ。早く。早く。
早く、あの2人の声が聞こえないところまで…——!