俺がしあわせにします
「颯多?!大丈夫か?!」

「あ。来た」

扉に向かってハルが言う。

ドアをすり抜け、ひどく心配したカオで俺に向かってまっすぐ歩いてくる。

「うん?大丈夫だよ」

はぁ、よかった〜っと脱力し、しゃがみこむ。

「修二こそ、大丈夫なの?用事あったんだろ?」

修二はスーツの上着のポケットを探り、携帯を取り出し操作しだした。

そして、それを俺に突きつけた。

「これ見て俺がほっとけるわけないだろ」

それは、メッセージの画面だった。恐らくさっきハルが修二に送ったものだ。
そこに書かれていた文字はたったの6文字

"ソウタSOS"

顔から火が出るくらい恥ずかしいって、こうゆうことじゃないかと思うくらい恥ずかしかった。

ったく、ハルは何送ってんの?
こんなの見たら、修二が飛んでくるのは、目に見えてるじゃないか。

俺たち3人の中で一番の世話焼きで優しい修二が、放っておける訳がなかった。

俺がハルを睨むとマジメに返された。

「だっておまえ、傘もささないでびしょ濡れで、ここに来ても、口もきかないし、なんか身体も動かない感じだったし。その文面強ち間違ってないと思うけど?」

「それにしたって、SOSって、緊急出動じゃないんだから!」

「そうか?こいつにとっては、緊急出動に値することだろ?

あ、"愛しの颯多瀕死"の方がよかった?」

ハルが悪乗りする。

「だから!」

ってハルに言いかけて、ハッとして修二に視線を戻す。

修二が俺を心底心配そうなカオで見つめている。

「あのね、命に別状はないんだ。でもなんていうか、思考カイロが停止したっていうか?なんか何言ってんのかわかんなくなっ・・・て」

修二の顔がみるみる険しくなっていく。

え、どうしたの?なんでそんな辛そうなカオしてんの?修二?

俺の頭の中にハテナが並んでいると、音もなく横から伸びて来た腕に包まれた。

「しゅう・・・じ?」

「そんなカオするな。いつものオレ様でワガママで生意気な颯多には似合わないよ」

何これ?半分悪口?てか生意気って俺とおまえ同い年じゃん。

「だけど、おまえにそんなカオさせるってことは、それなりのことがあったんだな。全部聞く。いつものおまえに戻れるまで全部聞くから」

そして少しだけ間をおいて、

「だから、泣くな」

と言った。
え?俺泣いてるの?嘘だ?!
だってハルとちゃんと話せたし、気分だって、もう回復してるのに。

「修二?俺泣いてないでしょ?」

言いながら、頬を触ってみる。

自分でも驚いた。俺の指先が濡れた。
気づかないうちに泣くって、ほんとにあるんだと、そのとき実感した。

「とにかく、飯にしようよ。颯多も修二もまだだろ」

ハルの明るい声が割って入った。
修二は俺の肩をポンと叩いて、立ち上がった。

立ち上がる修二にハルがにっこり笑顔で、手にしていたエプロンを渡した。

「何これ?まさか・・・」

修二は嫌な予感がするとでも言いたげにハルを睨む。
ハルは当たり前のように躊躇いなく、口を開いた。

「うん、飯作って」

「俺今来たとこなんだけど」

「だって、俺はお菓子しか作れないし、颯多は言わずもがなだし、おまえしかいないじゃん」

言わずもがなと省略されたことはちょっと腹が立ったが、俺は料理ができないどころか手伝いすら危ういことは事実だから、突っ込みはしない。

でも、ハルがお菓子しか作れないは、絶対ウソだけど。

「はいはい、わかったよ。ちょっと待ってろ」

いつものとこだが、ハルのこんな無茶ぶりも修二は一切断らない。
仕方ねぇなって呆れるけど、嫌なカオもしない。
ほら、もう冷蔵庫開けてる。

「颯多、チャーハンでいい?」

振り返って俺に聞く。

「うん、修二の作るもんならなんでもいい!うまいから」

笑顔で答えると、

「よし!すぐ元気にしてやるからな!」

ワイシャツの袖をまくって張り切って食材を冷蔵庫から取り出す。

「修二ぃ、俺には聞いてくれないの?」

ハルが口を尖らす。

「おまえは元気だから、聞かない(笑)」

修二が楽しそうに返す。

「確かに!」

ハルも笑った。

やっぱりここに来てよかった。
いや、俺がたどり着いたのは、本能だ。
本能がここへ来いと俺を動かしたのだ。

俺に元気をくれる人たちのいるところへ。
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