俺がしあわせにします
「そんなことがあったのか」

「はい」

再び重苦しい雰囲気が漂う中、俺は俯いて頷いた。

椎名さんは無言で俺の背中を優しく撫でた。

一瞬びくっと体が反応した。
椎名さんはそれに気づいたからなのか、微笑んで撫で続けた。

「前にあいつに言われたことあるんだけどさ」

椎名さんがゆっくりと話し出した。

「『もうしばらく恋愛はいいかな。わたし仕事に生きる!あっ、あんたはだめよ。仕事だけなんて。咲葉のこともちゃんと女性としても愛してあげないと』って」

「そのときは、『そんなん別に決めることないじゃん、なるようになるって』って思ってて、あいつにもそう言ったんだけど、思った以上に別れた傷は深くてさ。きっと自分を奮い立たせて、何かにすがりたかったんだな。って今は思う」

「和奏さんは仕事を選んだってことか」

「あぁ、でも寂しかったのかもな。俺は全然見抜けなかったけど、ほんとうは寂しくて、また恋愛したくなって、でも俺にあんなこと言った手前バツ悪くて何も言わなかったのかもしれない」

「そうゆう弱味見せないとこ、なんからしいですね」

「そうだな〜、素直じゃないとこあるからな、宮原和奏は」

「はい」

俺も思い当たるフシがあったから、笑顔で頷いた。

結局、俺の聞きたかったことはわからなかったけど、思わぬ話も聞けたし、今回はよしとしよう。
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