俺がしあわせにします
「おまえからの誘いはすげー嬉しいんだけどさ、ごめんな。これから外出なんだ。ランチ時間は10分あるかないかってとこだな」

こんなこと日常茶飯事とでも言うように、椎名さんは言った。

「そうですか、お忙しいところ、呼び止めてすみませんでした。営業って大変なんですね。お気をつけて」

「まあな、相手次第なところはあるかもね。でも、楽しいこともたくさんあるよ」

俺に向かってキレイにウインクを決める。

なんのアピールだよっ。
と心の中でツッコミを入れた。

「興味湧いたら、いつでも声かけてよ、な。
じゃ、行ってくる」


「わっ!近いです!」

俺の耳元で囁いて、椎名さんは疲れたカオも嫌なカオもしないで、エントランスを抜けて行った。

後ろ姿を見送りながら少しだけ罪悪感が残る。

「何かあったのか?」そんなことを聞いてくる彼には、今夜のことは、言えなかった。

だってまた、心配させちゃうから。
そんなの迷惑でもなんでもないって椎名さんは言うだろうけど。

やはり罪悪感は拭えなかった。

ごめんなさい!
結果はすべてお話しますから。
だからどうか、何も気づきませんように。

俺は祈るような気持ちで、彼の去った方を見つめた。
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