俺がしあわせにします
「失礼します。ご注文はお決まりでしょうか?」

静かに戸が開いて、定員さんが顔を出した。

俺は飲み物と適当につまみを注文した。

すぐに飲み物が来た。

和奏さんがグラスに注ごうとする。

だから待ってって!
この人といい、椎名さんといい、俺の立場わかってるくせに!

「和奏さん、ストップ!」

え?と俺を見る。


「え?じゃないでしょ!俺が注ぎますから。手酌とかありえないでしょ」

半分呆れて言うと、

「あ、ごめん。同期会のくせでつい」

和奏さんは恥ずかしそうに笑った。

俺は和奏さんが手を離したビール瓶を持った。

和奏さんがグラスを差し出す。

「もういいです。譲ってくれなかった椎名さんよりマシですから」

言いながら注いでいると、和奏さんが目を丸くして言った。

「あれから椎名とごはん行ったの?」

はっとした。別に隠す必要はないけど、なんとなく二人で行ったとは言いづらくて、あの日のことは何も言ってなかった。

「あ、はい」

和奏さんがこれ以上詮索しないことを祈りながら、答えたが、無理だった。

「え?なんで?椎名ったら、まさか無理やり倉科くんを付き合わせたの?」

え、いや、どちらかというと俺が無理やりさらったんですけど。

「いえ、なんかもう少し話してみたくなって、俺から声かけたんです。そしたら、OKしてくれて」

ほんとは違うけど。俺は半分事実、半分作り話で話した。

笑って誤魔化そうとすると、視線が突き刺さった。
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