舞い散る淡いさくらの花びら
その日、昼寝をしていたらまた彼が夢に出てきた。
学校だろうか。私も彼も制服を着て、しゃがみこんで見つめ合っている。
これ以上はないくらい彼が距離を詰めてきた瞬間、ガラスが砕けるような突然の親近感に襲われて、私は彼の耳に何やら囁いていた。
大人になってしまった今はもう思い出せないくらい青くてひたすら甘い言の葉。

目が覚めて、ベッドに横たわったまま私は思い出していた。

意地悪だったのは彼の声だけではない。
いつだって私にかける言葉一つ一つになんだか棘があった。
今思えば親しみの裏返しなのに、女子は男子より大人なのだからもっと柔らかく接していれば良かったのに、あの頃の私は、可愛げのない態度ばかり取ってしまっていたんだ。
もしももっといつも丁寧に私が笑っていたら。
私達はどうなっていたのだろう。

今でも一緒に居ただろうか。

夢の中の自分が最後あまりにも素直だったせいで私は余韻からなかなか抜けられなかった。

そして彼の学ランの、冷たい生地の感触を未だに覚えている自分に驚いた。

一度だけ学校の外でこっそり会った。
その日からずっと、得体の知れない見えない特別な何かが私達を繋いでいた。
惹かれあってる事は間違いなかった、だけど言葉を使って確かめ合ったわけじゃないし、お互いに縛りあいたくもなかった。

たまに目が合う時は、しばらく見つめ合ったりして、名前を呼ばれて近づく時だけ、さっきの夢のように親近感が溢れて一瞬気持ちがほどけたりもした。

2年生の終わり、無意識に彼の部活の練習を眺めに行ってしまった時、その時期にはもう重症だった気がする。

彼氏を見るために一緒についてきた友達は、そんな私を笑っていた。

「好きなんだね。」と。

ちょっと寂しくて幸せな放課後だった。
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