スイセン
花咲屋-hanasakiya-

花崎 凛獰

〈花崎 凛獰(かざき りんどう)〉

私は、父母が営む花屋、
花咲屋(はなさきや)で働いている。

｢2年目のお祝いなんですね!!おめでとうございます。どのお花をお探しですか？｣

｢彼女、ピンク色が好きなんです。なのでピンク色の花を…｣

｢ピンク色…うーん、こちらの胡蝶蘭(コチョウラン)はいかがでしょう？｣

少し悩んでから、私は自分の右側に飾ってある胡蝶蘭を指した。

｢可愛い花ですね。胡蝶蘭…ですか？｣

｢名前の由来は蝶が華やかに舞う姿に似ているとされたことから来ています。花言葉は“あなたを愛しています”なんですよ｣

｢素敵ですね。薔薇だとベタ過ぎて少し恥ずかしいんだけど…｣

この花なら、と後を濁しながら右手を首の後ろに回して、俯いた目の前の男性の耳は真っ赤だった。

可愛いな。と心の中で思いながら、注文された本数の胡蝶蘭を手に取る。

レジの横のラッピング用の台の上にそっと乗せて、彼の顔を見つめた。

｢包装もピンク色になさいますか？｣

｢はい。お願いします！あの…この手紙も一緒に包んで貰えませんか？｣

白い横長の封筒を差し出され、私は笑顔で受け取った。

｢かしこまりました。少々お待ちくださいませ｣

『羽椛へ』

封筒に書かれた文字が一瞬だけ視界に入る。羽に椛(もみじ)…なんて読むんだろう？

そんなことを思いながら、｢お待たせしました｣と出来た花束を彼に手渡した。

それが、1番最初の記憶だ。

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