スイセン
「いらっしゃいませ〜」

ビクッ

近くで花の手入れをしていた店員さんの声に、オーバーに反応してしまう。

てか、そばに店員さんがいたことにも気づかなかった。

振り返った時にはもう手入れ中の花に視線を戻していたから、作業の邪魔をするようで少し気が引けた。

(落ち着け、麦野帆嵩(むぎのほたか)…!)

「あああのっ…!その、彼女ともうすぐ2年目でして……えっと…」

(落ち着けって!)

焦ってどもるわ言葉は出てこないわで恥ずかしい。

羽椛と一緒じゃなくて良かった。

「2年目のお祝いなんですね!!おめでとうございます。どのお花をお探しですか?」

綺麗な人だ、と思った。


そして気さくな口調に、少し緊張が解けた。

「彼女、ピンク色が好きなんです。なのでピンク色の花を…」

探しているんですけど、と言いたかったけどやっぱりまだ声が震える。

「ピンク色…うーん、こちらの胡蝶蘭(コチョウラン)はいかがでしょう?」

俺の言葉を聞き取り、店員さんは店を見渡してから近くにある花を指した。

“胡蝶蘭”という普段聞き慣れない言葉をオウム返しすると、丁寧に花の由来や花言葉を教えてくれた。

俺なんて、薔薇くらいしか分からなかったよ…。

その花を選び、包装もピンクにしてもらった。

「あの…この手紙も一緒に包んで貰えませんか?」

そしてポケットにいた手紙を思い出し、店員さんに渡した。

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

笑顔で受け取った店員さんのエプロンに付いている

“花崎
-kazaki-”

と書かれたネームプレートが、照明の反射でキラリと光って見えた。

綺麗な店員さんの名前は、“カザキ”さんらしい。
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