スイセン
…ご飯を食べ終わった私たちは、お風呂に入った。

私は今、帆嵩くんの前に座って髪の毛を乾かしてもらっていた。

毎日ってわけじゃないけど、「今日は俺が乾かしたい」って言ってくれる日があって。
その時は甘えてしまう。

彼の大きくて温かい手に、サラサラと優しく頭から髪の毛先まで繰り返し撫でられているようで。

その感触が気持ちいい。

ウトウトしているとドライヤーの温風が冷風に切り替わり、どうやらお仕上げの時間みたい。

「終わったよ。寝よっか」

優しい声と共に頭を撫でられ、「ありがとう」と伝えながら彼の体に寄りかかった。

「いいえ」

とまた優しい声がして、後ろから抱きしめられる。

ああ、ダメだ。

その手を撫でながら、胸の奥がぎゅっと苦しくなって泣きそうになるのを堪えた。

(どこにも行かないで)

心の中でしか言えない。重たいと思われたくないから。

それでもどうしようもなく情緒がぐらつくので、ベッドの上に仰向けに寝転がる帆嵩くんの胸の上に自分の頭を乗せてみる。

とくん、とくんと規則正しく脈打つ彼の心音と、「どうしたの?」という包み込まれるような低い声が振動を伝わって、耳の奥に響くのが心地良い。

彼の手が私の頭を撫でてくれる。

「寂しくなっちゃった?」

「…コクン」

ゆっくり頷いて、漠然とした不安と恐怖でざわつく自分の胸を抑えるように彼の胸に耳をぎゅっと押し付けた。
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