スイセン
「そんなに押し付けられたら、俺緊張して音早くなっちゃうよ?」

彼の笑い声と言葉通り少し早くなる心音が、私の耳に響いて体の緊張を少しずつ解していく。

「ねえ…恥ずいんだけど」

自分でも早くなってるって分かって私の頭をぽんぽん、と叩く帆嵩くんはすごく可愛い。

首を振って、自然と口角が緩むのを感じながらまた私は耳を押し付けた。

「もー…ったく」

押し付けているのと反対の耳たぶをふにっと引っ張られたかと思うと、その手が私の体にまわされ、ぎゅっと抱き寄せられた。

彼の胸元に置いていた自分の右手を、彼の頬へと伸ばす。

(大好きだよ)

そう思いを込めて撫でる。

昔は私より背が低かったのにな。
いつの間にか見上げるようになってた。

帆嵩くんが声変わりしたのはいつだったかな。
その前の声はどんな声だったかな…。

いざ思い出そうとすると案外思い出せないものなんだなぁ。

少し切なくなって、彼の空いた右手を探した。

それに気づいたかのように半開きだった手のひらがゆっくり開いて、私の手が重なるとそっと包み込んでくれた。
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