スイセン
ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、今度は彼の大きな右手が私の左頬にそっと触れた。

「!」

自分とは違う体温、肌の感触に体がビクリと痙攣した。
そのままその手は頬から後頭部へとスライドしていき、まずいと思った時には遅かった。

ふにっと彼の唇が当たった。

唇の横に。

(あ、危なかった……)
何とかキスは免れたが、再度彼の右手に力が入る。

今度の麦野さんは、力のない瞳で私を見つめた。

その瞳に私が映っているのかどうかは、分からなかった。

「…」
彼の瞼はそっと閉じ、手はだらんと力を失って行った。

寝てしまったのだろう。また規則正しい寝息を立て始めた。

ホッと息をつきながらも、私の心臓はドッドッと脈打ち、彼の寝顔を見て顔が熱くなっていくのを感じた。

(あつ)…」
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