小っさいおっさんの、大きな野望~アイドルHinataの恋愛事情【2】~
14 何はともあれ。
「……結婚式?」
年が明けて、ついさっき記者会見を終えたばかりの道坂サンと高橋クンが同時に聞き返した。
「そうや。キミらさっき、記者会見で『挙式する予定はない』って言うてたやろ? それやったら、番組で結婚式したらええんとちゃう? 全部、こっちが準備するし」
ボクは、花本サンと話し合った『プラン』を彼らに提案した。
彼らは、顔を見合わせている。
高橋クンは、顎に手を当ててしばらく考えた後、
「……じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」
「えぇ? ちょっと待ってよ。番組って『しぐパラ』でしょう? そんなの、私は嫌!!」
「いいじゃない、せっかく言ってもらってるんだから。僕たちだけだったら、きっと面倒がって、一生、挙式なんかできっこないし」
「さっき、それでいいって諒くんだって言ってたじゃない!」
「確かに、言った。でも、こうして阿部さんが言ってくれてるんだ。断る理由なんて、ないよ」
「断る理由なんて、『しぐパラ』だから、で十分よ!」
「……みっちゃんは、僕と結婚式挙げるの、嫌なんだ?」
「そんなこと……言ってないでしょう?」
「じゃぁ、問題ないよね?」
道坂サンは、黙り込んでしまった。
歳は道坂サンの方が9コも上なのに、立場は断然、高橋クンの方が上なんやな。
高橋クンは、道坂サンの返事も聞かずに、ボクに向き直って言った。
「阿部さん、その話、お願いします。彼女が嫌がっても、僕が説得しますんで」
「あ、そう? じゃぁ、話進めとくわ」
「はい、お願いします。……で、いつ頃ですか?」
「あ、それが、もうあんまり日にちがないんやけど……、今月の……この日」
そう言って、ボクはカレンダーを指差した。
高橋クンは、その日付を見て、固まった。
「……え、2週間もないじゃないですか」
そして、その『結婚式』当日。
郊外にある、やや小さめの教会の前で、彼らは建物を見上げて口を開けてたたずんでいた。
「な、なんで、こんなちゃんとした教会、短期間で押さえられちゃうの?」
道坂サンは、驚きを隠せない。
「私、てっきりテレビ局のスタジオかどっかで、コントみたいな結婚式するんだと思ってた」
「なかなかええとこでしょ? たまたま、いいタイミングでキャンセルが出たんやて。本来なら、2年待ちらしいよ」
「2年!?」
彼らは同時に叫んだ。
「結婚するって決めてから……2年も待つんですか?」
「そうやで? 中には、いろいろあって4年も5年も待ってる人かて、おるねん――あいたっ!!」
後ろからボクの頭を叩いたのは、花本サンだった。
「なにしてんねん、こんなとこで。はよ、着替えとか準備せなアカンやろ?」
花本サンは眉間にしわを寄せて、彼らに言った。
「花本サン、なんでそんなに機嫌悪そうな顔してますの? めでたい席なんですから、もっと笑顔で……」
ボクが言い終える前に、花本サンはボクを睨みつけた。
「オレら、ここで煙草吸うてるから、おまえら、はよ行ってこいや」
花本サンが言うと、彼らはぺこりと頭を下げて、建物の中へと入っていった。
「おまえな、余計なこと言うなや」
「すんません……。でも、ホントにいいんですか?」
「何がや?」
「これでまた、2年待ちですよ?」
ボクが笑いかけると、花本サンはため息をついた。
「しゃーないやないか。同じ番組のメンバーから、二人も同時に結婚するわけにはイカンやろ」
「そーですかね? ボクは別に構わへんと思いますけど?」
ボクは、落ちていた小石を軽く蹴った。
「でもまさか、こんなことになるとは思いませんでしたね。ほんと、恐れていたことが起きてしもたっていうか」
……そう。
実は、この日この教会で式を挙げる予定だったんは。
花本サンだったんですわ。
4、5年くらい前に彼女との結婚が決まったんですけど。
いまから2年くらい前にも、番組から別の幸せモンが出てきたってことで、自分の結婚を先に延ばして、挙式の会場まで譲って。
そこからまた2年待って、今日まで来たんですけど、また同じ事が起きてしもたってわけです。
「どうして、そんなにココにこだわるんすか?」
ボクは、教会を指差した。
「どーしても、ココがええんやと。……なんや、ココで式挙げると、絶対に別れることがないらしいねんて。そんな迷信やとかジンクスなんて信じんでも、心配いらんのにな」
花本サンは、珍しく穏やかな表情で笑った。
「まぁ、でも、オレのわがまま聞いてもらって、待たせてるねんから、これくらい叶えてやりたいと思うやんか」
「……彼女にベタ惚れですもんね、花本サンは」
「いらんこと言わんでええねん」
花本サンの顔が、赤くなっていった。
「まぁ、これで2年後には、確実ですね? 残ってるんは、ボクらだけですし」
「……………………」
無言で煙草に火をつけた花本サンは、ふぅぅーっと深く息を吐いた。
「おまえは……、どうすんねん?」
「ボク?」
「いつまでも……ひきずってても、しゃーないやろ? ええ人見つけたら、オレに遠慮なんかせんと……」
「ひきずってるわけでも、遠慮してるわけでもないですよ。ただ、ええ人とめぐり合わへんだけですって」
「ホンマか?」
「……ホンマですよ」
ボクは、手を頭の後ろで組んで、空を見上げた。
彼らの挙式も、番組の収録(花本サンの乱入も含めて)も無事済んで。
ボクの仕切りで、二次会が行われることになった。
とはいっても、本人達は『どうしても行かなきゃいけないところがある』と言って、顔だけだして帰ってしまったんやけど。
『しぐパラ』のメンバーや、『Hinata』と『SEIKA』、そして『Andante』の二人と、その他大勢で盛り上がった。
「……花本サン、さっきからどこにかけてるんですか?」
何度も携帯をかけている花本サンに声をかけた。
「道坂の携帯」
「なんで、そんなジャマばっかするんすか?」
「ええやんけ。ちょっとくらいジャマしたかて。……あ、もしもしぃ。花本やけどもぉ」
なんだかんだで、自分の結婚を潰されたこと、イラついてるんちゃいますの?
「……でな、こんなんで。もしもし? …………………あ」
「どないしたんですか?」
「高橋に切られてもうたらしいわ」
「そりゃ、そうですわ」
「……繋がらへんな。電源切られたか? 確か、高橋の家の電話番号も聞いてたからそっちに…………アカン、こっちも繋がらへん」
花本サン、いい加減シツコイですって。
「この間、記者会見で高橋クンが言うてましたやん。レポーターに、『妊娠の可能性は?』って聞かれて、『100%あり得ません』って。もしかしたら、今日まで待ってたんと違います? そっとしといてあげたらええですやん?」
「せやから、面白くないねん。自分らばっかり、幸せになりよって……」
「そない言うなら、周りのことなんか気にせんと、さっさと籍だけでも入れはったらええのに」
ボクが言うと、花本サンは中ジョッキの生ビールを一気飲みして、黙り込んだ。
……ほんと、いろんな人に気ぃ遣ってるんですわ、花本サンって。
年が明けて、ついさっき記者会見を終えたばかりの道坂サンと高橋クンが同時に聞き返した。
「そうや。キミらさっき、記者会見で『挙式する予定はない』って言うてたやろ? それやったら、番組で結婚式したらええんとちゃう? 全部、こっちが準備するし」
ボクは、花本サンと話し合った『プラン』を彼らに提案した。
彼らは、顔を見合わせている。
高橋クンは、顎に手を当ててしばらく考えた後、
「……じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」
「えぇ? ちょっと待ってよ。番組って『しぐパラ』でしょう? そんなの、私は嫌!!」
「いいじゃない、せっかく言ってもらってるんだから。僕たちだけだったら、きっと面倒がって、一生、挙式なんかできっこないし」
「さっき、それでいいって諒くんだって言ってたじゃない!」
「確かに、言った。でも、こうして阿部さんが言ってくれてるんだ。断る理由なんて、ないよ」
「断る理由なんて、『しぐパラ』だから、で十分よ!」
「……みっちゃんは、僕と結婚式挙げるの、嫌なんだ?」
「そんなこと……言ってないでしょう?」
「じゃぁ、問題ないよね?」
道坂サンは、黙り込んでしまった。
歳は道坂サンの方が9コも上なのに、立場は断然、高橋クンの方が上なんやな。
高橋クンは、道坂サンの返事も聞かずに、ボクに向き直って言った。
「阿部さん、その話、お願いします。彼女が嫌がっても、僕が説得しますんで」
「あ、そう? じゃぁ、話進めとくわ」
「はい、お願いします。……で、いつ頃ですか?」
「あ、それが、もうあんまり日にちがないんやけど……、今月の……この日」
そう言って、ボクはカレンダーを指差した。
高橋クンは、その日付を見て、固まった。
「……え、2週間もないじゃないですか」
そして、その『結婚式』当日。
郊外にある、やや小さめの教会の前で、彼らは建物を見上げて口を開けてたたずんでいた。
「な、なんで、こんなちゃんとした教会、短期間で押さえられちゃうの?」
道坂サンは、驚きを隠せない。
「私、てっきりテレビ局のスタジオかどっかで、コントみたいな結婚式するんだと思ってた」
「なかなかええとこでしょ? たまたま、いいタイミングでキャンセルが出たんやて。本来なら、2年待ちらしいよ」
「2年!?」
彼らは同時に叫んだ。
「結婚するって決めてから……2年も待つんですか?」
「そうやで? 中には、いろいろあって4年も5年も待ってる人かて、おるねん――あいたっ!!」
後ろからボクの頭を叩いたのは、花本サンだった。
「なにしてんねん、こんなとこで。はよ、着替えとか準備せなアカンやろ?」
花本サンは眉間にしわを寄せて、彼らに言った。
「花本サン、なんでそんなに機嫌悪そうな顔してますの? めでたい席なんですから、もっと笑顔で……」
ボクが言い終える前に、花本サンはボクを睨みつけた。
「オレら、ここで煙草吸うてるから、おまえら、はよ行ってこいや」
花本サンが言うと、彼らはぺこりと頭を下げて、建物の中へと入っていった。
「おまえな、余計なこと言うなや」
「すんません……。でも、ホントにいいんですか?」
「何がや?」
「これでまた、2年待ちですよ?」
ボクが笑いかけると、花本サンはため息をついた。
「しゃーないやないか。同じ番組のメンバーから、二人も同時に結婚するわけにはイカンやろ」
「そーですかね? ボクは別に構わへんと思いますけど?」
ボクは、落ちていた小石を軽く蹴った。
「でもまさか、こんなことになるとは思いませんでしたね。ほんと、恐れていたことが起きてしもたっていうか」
……そう。
実は、この日この教会で式を挙げる予定だったんは。
花本サンだったんですわ。
4、5年くらい前に彼女との結婚が決まったんですけど。
いまから2年くらい前にも、番組から別の幸せモンが出てきたってことで、自分の結婚を先に延ばして、挙式の会場まで譲って。
そこからまた2年待って、今日まで来たんですけど、また同じ事が起きてしもたってわけです。
「どうして、そんなにココにこだわるんすか?」
ボクは、教会を指差した。
「どーしても、ココがええんやと。……なんや、ココで式挙げると、絶対に別れることがないらしいねんて。そんな迷信やとかジンクスなんて信じんでも、心配いらんのにな」
花本サンは、珍しく穏やかな表情で笑った。
「まぁ、でも、オレのわがまま聞いてもらって、待たせてるねんから、これくらい叶えてやりたいと思うやんか」
「……彼女にベタ惚れですもんね、花本サンは」
「いらんこと言わんでええねん」
花本サンの顔が、赤くなっていった。
「まぁ、これで2年後には、確実ですね? 残ってるんは、ボクらだけですし」
「……………………」
無言で煙草に火をつけた花本サンは、ふぅぅーっと深く息を吐いた。
「おまえは……、どうすんねん?」
「ボク?」
「いつまでも……ひきずってても、しゃーないやろ? ええ人見つけたら、オレに遠慮なんかせんと……」
「ひきずってるわけでも、遠慮してるわけでもないですよ。ただ、ええ人とめぐり合わへんだけですって」
「ホンマか?」
「……ホンマですよ」
ボクは、手を頭の後ろで組んで、空を見上げた。
彼らの挙式も、番組の収録(花本サンの乱入も含めて)も無事済んで。
ボクの仕切りで、二次会が行われることになった。
とはいっても、本人達は『どうしても行かなきゃいけないところがある』と言って、顔だけだして帰ってしまったんやけど。
『しぐパラ』のメンバーや、『Hinata』と『SEIKA』、そして『Andante』の二人と、その他大勢で盛り上がった。
「……花本サン、さっきからどこにかけてるんですか?」
何度も携帯をかけている花本サンに声をかけた。
「道坂の携帯」
「なんで、そんなジャマばっかするんすか?」
「ええやんけ。ちょっとくらいジャマしたかて。……あ、もしもしぃ。花本やけどもぉ」
なんだかんだで、自分の結婚を潰されたこと、イラついてるんちゃいますの?
「……でな、こんなんで。もしもし? …………………あ」
「どないしたんですか?」
「高橋に切られてもうたらしいわ」
「そりゃ、そうですわ」
「……繋がらへんな。電源切られたか? 確か、高橋の家の電話番号も聞いてたからそっちに…………アカン、こっちも繋がらへん」
花本サン、いい加減シツコイですって。
「この間、記者会見で高橋クンが言うてましたやん。レポーターに、『妊娠の可能性は?』って聞かれて、『100%あり得ません』って。もしかしたら、今日まで待ってたんと違います? そっとしといてあげたらええですやん?」
「せやから、面白くないねん。自分らばっかり、幸せになりよって……」
「そない言うなら、周りのことなんか気にせんと、さっさと籍だけでも入れはったらええのに」
ボクが言うと、花本サンは中ジョッキの生ビールを一気飲みして、黙り込んだ。
……ほんと、いろんな人に気ぃ遣ってるんですわ、花本サンって。