小っさいおっさんの、大きな野望~アイドルHinataの恋愛事情【2】~
02 若いイケメンの影。
数週間後、有能な『諜報部員』が持ってきたのは、これまた驚きの『V』だった。
「とりあえず、こちらを見てください」
テレビ局の一角にある、小さな控え室。
いまこの控え室にいるのは、ボクと、花本さんと、『諜報部員』である水野クンの3人。
その控え室のテレビに繋がれているビデオデッキに、水野クンは一本のビデオテープを押し込んだ。
テレビ画面に映し出されたのは、どこかの建物の中。
「……これ、もしかして、図書館?」
ボクの問いに、水野クンが答えた。
「そうです。2週間くらい前に撮ったんですけど……あ、ここからです」
画面には、本を片手になにやら小さな声で話しをしている男女。
図書館でこんなん撮ったら、立派に盗撮ですやん……。
女性の方は、道坂サンだった。
特にオシャレしているわけでもなく、いつも仕事場で見るのと変わらない。
男性の方は、この間の写真の『若いイケメンさん』だ。
せっかくのイケメンなのに、なんの変哲もないTシャツと膝丈のパンツという、少し地味な服装。
髪型も、特に整髪料を使ってるような感じもなく、ホンマの『自然』な状態。
……とりあえず、この男性は、このギョーカイの人ではなさそうやな。
なぜって、オーラがない。
『若いイケメンさん』が、本の表紙を指差して、道坂サンに話しかけている。
声が小さくて、ところどころしか聞き取れない。
『……で、………がさ、みっちゃんに、似てない?』
…………『みっちゃん』!?
『え? 私に…………が……るの?』
『……とか、この…………とかさ、…………って。』
道坂サンが、少し不機嫌な表情になった。
とはいっても、本気で怒っているわけではなくて、いつも仕事でもしているのと同じ、ただの軽いリアクション的な感じ。
『若いイケメンさん』は、その道坂サンを見て、クスクスと笑っている。
今度は道坂サンが、自分が持ってた本を見せた。
『これ…………か、…………で、なんかリョウくんに…………ない?』
『僕に?』
……え、『リョウくん』!?
なんや、この二人、ものすごい仲良さそう。
『みっちゃん』と『リョウくん』と呼び合ってる。
……でも、まだ『付き合うてる』という確証までは至らないかな。
『リョウくん』が、しばらく顎に手を当てて何かを考えるようなポーズをした後、周りをチラっと見て、道坂サンの耳元でなにやらしゃべってる。
ち、近いって、二人。
やっぱり、この二人、付き合うてるんかな。
道坂サンは、呆れた表情で『リョウくん』を見た後、別の本を見に行くのか、その場を離れようとした。
その、彼に背を向けた瞬間の、道坂サンの表情。
仕事中にはあり得ないような、とても幸せそうな表情に見えた。
「……と、まぁこんな感じなんですけど」
水野クンはそう言って、ビデオを止めた。
「あの後は、普通に本を借りて、二人で図書館を出て行かれました」
「うぅーん、これは、仲良さそうではあるけれど、どうなんでしょうね? もし、付き合うてるんだとしたら、相当長いように感じるんやけど」
「僕も、阿部さんと同じ感想です。たった数ヶ月程度では、あんな雰囲気出せませんよね」
「恋愛経験のない道坂サンやから、男性が……しかもあんなイケメンさんが、あんな至近距離にいて、フツーにしていられるわけないよ」
「……とすると、『身内説』もまだ捨てきれませんね」
「せやなぁ……。でも、最後のあの道坂サンの表情が気になるよな。身内にあんなふうになるかな?……花本サンは、どう思います?」
ボクは、ずっと黙ったままの花本サンに意見を求めた。
気づいたら、花本サンはこの部屋に来て3本目の煙草に火をつけていた(ペース、速っ)。
花本サンは、その3本目の煙草を半分くらいのところまで吸って、無言でもみ消すと、そのまま部屋を出ていってしまった。
いま思うと、この『図書館デート』って、かなり大胆な行動やと思いますね。
なぜって、ちょうど夏休みに入ったばかりの学生やなんかが、涼みに……いや、宿題やなんかしに、うじゃうじゃいましたから。
そこへ、『Hinataの高橋諒』がいるって気づかれただけでも、きっと大パニックに陥るでしょうに、女性(普段、道坂サンを『女性』と思ったことはないですけど)とあんなイチャついてはるなんて。
……でも、全然気づかへんのね、周りの人って。
二人のことをチラチラ見てる人は何人かいたんですけど。
おそらくは、『この二人、こんなとこで何イチャついてんねん』って感じで見てはって。
その二人の正体には、まったく気づいてもいないんですよね。
『どこにでもいる、ちょっとかっこいい男のコと、ちょっと残念な女の人のカップル』って感じ。
ボクも、その『V』見てて、そういう印象を持ちましたしね。
二人が、『みっちゃん』と『リョウくん』と呼び合ってるのも、なんだか微笑ましいなと感じるくらいだったんですけど。
まさか、『リョウくん』 = 『(高橋)諒くん』ということには、まだまだこの時点では米粒ほどにも思いつかなかったんです。
「とりあえず、こちらを見てください」
テレビ局の一角にある、小さな控え室。
いまこの控え室にいるのは、ボクと、花本さんと、『諜報部員』である水野クンの3人。
その控え室のテレビに繋がれているビデオデッキに、水野クンは一本のビデオテープを押し込んだ。
テレビ画面に映し出されたのは、どこかの建物の中。
「……これ、もしかして、図書館?」
ボクの問いに、水野クンが答えた。
「そうです。2週間くらい前に撮ったんですけど……あ、ここからです」
画面には、本を片手になにやら小さな声で話しをしている男女。
図書館でこんなん撮ったら、立派に盗撮ですやん……。
女性の方は、道坂サンだった。
特にオシャレしているわけでもなく、いつも仕事場で見るのと変わらない。
男性の方は、この間の写真の『若いイケメンさん』だ。
せっかくのイケメンなのに、なんの変哲もないTシャツと膝丈のパンツという、少し地味な服装。
髪型も、特に整髪料を使ってるような感じもなく、ホンマの『自然』な状態。
……とりあえず、この男性は、このギョーカイの人ではなさそうやな。
なぜって、オーラがない。
『若いイケメンさん』が、本の表紙を指差して、道坂サンに話しかけている。
声が小さくて、ところどころしか聞き取れない。
『……で、………がさ、みっちゃんに、似てない?』
…………『みっちゃん』!?
『え? 私に…………が……るの?』
『……とか、この…………とかさ、…………って。』
道坂サンが、少し不機嫌な表情になった。
とはいっても、本気で怒っているわけではなくて、いつも仕事でもしているのと同じ、ただの軽いリアクション的な感じ。
『若いイケメンさん』は、その道坂サンを見て、クスクスと笑っている。
今度は道坂サンが、自分が持ってた本を見せた。
『これ…………か、…………で、なんかリョウくんに…………ない?』
『僕に?』
……え、『リョウくん』!?
なんや、この二人、ものすごい仲良さそう。
『みっちゃん』と『リョウくん』と呼び合ってる。
……でも、まだ『付き合うてる』という確証までは至らないかな。
『リョウくん』が、しばらく顎に手を当てて何かを考えるようなポーズをした後、周りをチラっと見て、道坂サンの耳元でなにやらしゃべってる。
ち、近いって、二人。
やっぱり、この二人、付き合うてるんかな。
道坂サンは、呆れた表情で『リョウくん』を見た後、別の本を見に行くのか、その場を離れようとした。
その、彼に背を向けた瞬間の、道坂サンの表情。
仕事中にはあり得ないような、とても幸せそうな表情に見えた。
「……と、まぁこんな感じなんですけど」
水野クンはそう言って、ビデオを止めた。
「あの後は、普通に本を借りて、二人で図書館を出て行かれました」
「うぅーん、これは、仲良さそうではあるけれど、どうなんでしょうね? もし、付き合うてるんだとしたら、相当長いように感じるんやけど」
「僕も、阿部さんと同じ感想です。たった数ヶ月程度では、あんな雰囲気出せませんよね」
「恋愛経験のない道坂サンやから、男性が……しかもあんなイケメンさんが、あんな至近距離にいて、フツーにしていられるわけないよ」
「……とすると、『身内説』もまだ捨てきれませんね」
「せやなぁ……。でも、最後のあの道坂サンの表情が気になるよな。身内にあんなふうになるかな?……花本サンは、どう思います?」
ボクは、ずっと黙ったままの花本サンに意見を求めた。
気づいたら、花本サンはこの部屋に来て3本目の煙草に火をつけていた(ペース、速っ)。
花本サンは、その3本目の煙草を半分くらいのところまで吸って、無言でもみ消すと、そのまま部屋を出ていってしまった。
いま思うと、この『図書館デート』って、かなり大胆な行動やと思いますね。
なぜって、ちょうど夏休みに入ったばかりの学生やなんかが、涼みに……いや、宿題やなんかしに、うじゃうじゃいましたから。
そこへ、『Hinataの高橋諒』がいるって気づかれただけでも、きっと大パニックに陥るでしょうに、女性(普段、道坂サンを『女性』と思ったことはないですけど)とあんなイチャついてはるなんて。
……でも、全然気づかへんのね、周りの人って。
二人のことをチラチラ見てる人は何人かいたんですけど。
おそらくは、『この二人、こんなとこで何イチャついてんねん』って感じで見てはって。
その二人の正体には、まったく気づいてもいないんですよね。
『どこにでもいる、ちょっとかっこいい男のコと、ちょっと残念な女の人のカップル』って感じ。
ボクも、その『V』見てて、そういう印象を持ちましたしね。
二人が、『みっちゃん』と『リョウくん』と呼び合ってるのも、なんだか微笑ましいなと感じるくらいだったんですけど。
まさか、『リョウくん』 = 『(高橋)諒くん』ということには、まだまだこの時点では米粒ほどにも思いつかなかったんです。