小っさいおっさんの、大きな野望~アイドルHinataの恋愛事情【2】~
07 いい加減、コンビ歴も長いんで。
ボクは見逃さなかった。
それまで、道坂サンと楽しそうにしゃべってた高橋クンが、なーこちゃんを見た瞬間の顔を。
『――――なんで!?』って表情。
『なんで、おまえがここにいるんだ!?』みたいな。
……どういうことやねん?
「このコ、最近ようテレビとか出てるでしょ。『Andante』のなーこっていうんやけど、知ってる?」
とりあえず、ボクは高橋クンと道坂サンに対して、なーこちゃんの紹介をした。
はっきりいって、『最近ようテレビとか出てる』ってレベルじゃないんやけど。
いまや、もう知らない人はいないんちゃうか? ってくらい、絶大な人気を誇る『Andante』だ。
ボクらの番組がきっかけで結成された『Andante』は、ボクらにとっては妹(娘?)分みたいな存在やから、少々へりくだった言い方をしたってわけなんやけど。
ボクの問いかけに、高橋クンは黙ったまま。
「……あ、えっと、以前に共演したことがあったわよね?」
道坂サンが見かねてそう言った……けど、なぜか表情が硬い。
高橋クンの異変に気づいて、戸惑ってるんちゃうやろか。
「はい、道坂サンとは何度か、お世話になってます。……高橋サンとは、歌番組でお会いしたことはありますけど、お話はしたことなかったですよね」
なーこちゃんがそう言っても、高橋クンは口を開こうとしない。
……ん? なーこちゃんの方も、なんだかいつもと調子が違うんちゃう?
しばらくの間、異様な空気が流れていた。
なーこちゃんは、口調はいつもと違うながらも、ハイテンションでしゃべってて。
道坂サンは、それに適当に相槌を打ってはいるものの、心ここにあらず。
そして、高橋クンと、『雑誌合コン』の彼が、なぜか睨み合っている。
その様子を、これまた適当に話しを合わせながら観察している、花本サンと、ボク。
ボクと花本サンは、顔を見合わせて、心の会話をした。
『この状況、どないやねん!?』
『知りませんよ。でも、明らかにおかしいですよね』
『高橋の様子が、一番おかしいよな?』
『そうですね。なーこちゃん見て、仰天してましたよね』
『……なにか、あるよな』
『でしょうね。でも、何があるんでしょう?』
『付き合うてるとか?』
『さっき、道坂サンと付き合うてるって言うてましたやん』
『じゃぁ、二股や』
『高橋クンって、そんなコですか?』
『わからんけど、ほかにあらへんやろ?』
『さっきから『雑誌合コン』の彼を睨んでるのは、なんででしょうね?』
『なんやねん、その『雑誌合コン』の彼って』
『ボクが勝手に命名しました。……で、なんで睨んでるんでしょうね?』
『そら、なーこの彼氏やと思って、睨んでるんとちゃう?』
『……でしょうかねぇ』
『それしかあらへんやろ』
『じゃぁ、『雑誌合コン』の彼が、高橋クンを睨んでる理由は?』
『そんなん……わからへんけど。高橋となーこの関係を知ってるから、とかちゃう?』
『『雑誌合コン』の彼は、なーこの彼氏ってことですか?』
『そういう可能性もあるよな』
『そういえば、さっきなーこちゃん、ボクが道坂サンと高橋クンの名前出したら、様子おかしかったですよ』
『どんな?』
『急に『やっぱり帰る』って言い出しまして』
『……怪しいな。その男に、知られたくなかったんちゃう?』
『『雑誌合コン』の彼にですか?』
『そうや。他に、ないやろ。二股かけてる相手二人が会うたら、ヤバイんちゃう?』
『二人して、二股ですか? なんか、複雑ですね』
『あり得ん話やないやろ』
『じゃぁ、道坂サンの立場ないですやん』
『やっぱり、何かウラがある思ったんや。高橋に騙されてんねん、道坂は』
さっきの高橋クン、嘘をついているようには見えなかったんやけど。
彼は俳優業もなかなか評価されているようやし……演技やったんやろうか。
でも、もしそうなら、いったいなんのために?
そんな、騙してまで道坂サンと付き合う理由って?
……アカン、もうわけわからへん。
「……すんません、僕、明日早いんで、そろそろ失礼します」
それまでずっと黙り込んでいた高橋クンが、急にすっと立ち上がった。
「道坂さん、送ってきますよ。ドッキリとはいえ、怖い思いした後に一人で夜道歩くのは不安でしょ?」
高橋クンは、道坂サンを気遣ってるようやけど……、表情は硬い。
「へぇ、このコは置いてくんだ?」
こちらもそれまでずっと黙っていた『雑誌合コン』の彼が、なーこちゃんを指して言った。
……どういうことやねん?
あんたの彼女なら、あんたが連れて帰ったらええことちゃうん?
「……あんたには、カンケーねぇだろ」
高橋クンが、イラついた口調で、『雑誌合コン』の彼に言った。
『関係ない』?
高橋クンが、なーこちゃんを置いていこうが、連れて帰ろうが、『雑誌合コン』の彼には、関係ないだろ、……ってことやな?
「あ……私は平気だから、高橋くん、なーこちゃん送ってあげたら? ほら、彼女若いし、それこそ夜道は危険――」
「道坂さんは、黙ってて」
「…………あ、あたしなら、この人呼ぶから、大丈夫」
なーこちゃんが、携帯の画面を高橋クンに見せた。
「…………わかった」
どうやら、共通の知り合いの名前が表示されていたらしい。
「……じゃ、すんません、お先に失礼します」
「あ……うん、気ぃつけてな」
最後に、『雑誌合コン』の彼をひと睨みして、高橋クンは個室を出た。
道坂サンも、それにばたばたと続く。
……もう、考えるの放棄していいっすかね。
「じゃぁ、あたしも帰ろっかなぁー」
なーこちゃんが、うんっと伸びをして、いつもの調子でしゃべりだした。
「あ、雑誌の取材って、もういいんっすか?」
「あぁ、さっきもう十分……終わりましたよ」
『雑誌合コン』の彼が、ニコリと笑って、ボクらにも挨拶して去っていった。
なんや、ここは付き合うてるわけやないんやな。
「なーこちゃん、もう夜遅いけど、大丈夫?」
「阿部サン、心配してくれるんっすか? 大丈夫っすよ、迎えにきてもらうし」
「迎えにって……誰に?」
なーこちゃんは、顎に手を当てて、目をくりくりっと動かして考えた。
「ん……っと、アニの……友だち?」
「え、お兄ちゃんいるんやったら、お兄ちゃんに迎えにきてもうたらええんと違うの?」
「あぁー、それは……ムリっすよ。ムリムリ。これから大事な話するっぽかったし」
「……は?」
なんか、ついさっきまでお兄ちゃんと話でもしてたかのような言い方やな。
……やっぱり、言ってる意味が良く分からへんのやけど。
ほんと、今思えば、なんですけど。
なーこちゃんとの、この会話で、気づくべきやったんですよ。
なーこちゃんが、ついさっきまで話してた『お兄ちゃん』に。
そう、それが、高橋クンであることに。
ついでに、その『お兄ちゃん』がするっぽかった、という『大事な話』。
それが、プロポーズやってことにも。
その両方……もしくは、どちらかでも気づいていれば。
この後、あんなにこじれることはなかったと思うんです。
それまで、道坂サンと楽しそうにしゃべってた高橋クンが、なーこちゃんを見た瞬間の顔を。
『――――なんで!?』って表情。
『なんで、おまえがここにいるんだ!?』みたいな。
……どういうことやねん?
「このコ、最近ようテレビとか出てるでしょ。『Andante』のなーこっていうんやけど、知ってる?」
とりあえず、ボクは高橋クンと道坂サンに対して、なーこちゃんの紹介をした。
はっきりいって、『最近ようテレビとか出てる』ってレベルじゃないんやけど。
いまや、もう知らない人はいないんちゃうか? ってくらい、絶大な人気を誇る『Andante』だ。
ボクらの番組がきっかけで結成された『Andante』は、ボクらにとっては妹(娘?)分みたいな存在やから、少々へりくだった言い方をしたってわけなんやけど。
ボクの問いかけに、高橋クンは黙ったまま。
「……あ、えっと、以前に共演したことがあったわよね?」
道坂サンが見かねてそう言った……けど、なぜか表情が硬い。
高橋クンの異変に気づいて、戸惑ってるんちゃうやろか。
「はい、道坂サンとは何度か、お世話になってます。……高橋サンとは、歌番組でお会いしたことはありますけど、お話はしたことなかったですよね」
なーこちゃんがそう言っても、高橋クンは口を開こうとしない。
……ん? なーこちゃんの方も、なんだかいつもと調子が違うんちゃう?
しばらくの間、異様な空気が流れていた。
なーこちゃんは、口調はいつもと違うながらも、ハイテンションでしゃべってて。
道坂サンは、それに適当に相槌を打ってはいるものの、心ここにあらず。
そして、高橋クンと、『雑誌合コン』の彼が、なぜか睨み合っている。
その様子を、これまた適当に話しを合わせながら観察している、花本サンと、ボク。
ボクと花本サンは、顔を見合わせて、心の会話をした。
『この状況、どないやねん!?』
『知りませんよ。でも、明らかにおかしいですよね』
『高橋の様子が、一番おかしいよな?』
『そうですね。なーこちゃん見て、仰天してましたよね』
『……なにか、あるよな』
『でしょうね。でも、何があるんでしょう?』
『付き合うてるとか?』
『さっき、道坂サンと付き合うてるって言うてましたやん』
『じゃぁ、二股や』
『高橋クンって、そんなコですか?』
『わからんけど、ほかにあらへんやろ?』
『さっきから『雑誌合コン』の彼を睨んでるのは、なんででしょうね?』
『なんやねん、その『雑誌合コン』の彼って』
『ボクが勝手に命名しました。……で、なんで睨んでるんでしょうね?』
『そら、なーこの彼氏やと思って、睨んでるんとちゃう?』
『……でしょうかねぇ』
『それしかあらへんやろ』
『じゃぁ、『雑誌合コン』の彼が、高橋クンを睨んでる理由は?』
『そんなん……わからへんけど。高橋となーこの関係を知ってるから、とかちゃう?』
『『雑誌合コン』の彼は、なーこの彼氏ってことですか?』
『そういう可能性もあるよな』
『そういえば、さっきなーこちゃん、ボクが道坂サンと高橋クンの名前出したら、様子おかしかったですよ』
『どんな?』
『急に『やっぱり帰る』って言い出しまして』
『……怪しいな。その男に、知られたくなかったんちゃう?』
『『雑誌合コン』の彼にですか?』
『そうや。他に、ないやろ。二股かけてる相手二人が会うたら、ヤバイんちゃう?』
『二人して、二股ですか? なんか、複雑ですね』
『あり得ん話やないやろ』
『じゃぁ、道坂サンの立場ないですやん』
『やっぱり、何かウラがある思ったんや。高橋に騙されてんねん、道坂は』
さっきの高橋クン、嘘をついているようには見えなかったんやけど。
彼は俳優業もなかなか評価されているようやし……演技やったんやろうか。
でも、もしそうなら、いったいなんのために?
そんな、騙してまで道坂サンと付き合う理由って?
……アカン、もうわけわからへん。
「……すんません、僕、明日早いんで、そろそろ失礼します」
それまでずっと黙り込んでいた高橋クンが、急にすっと立ち上がった。
「道坂さん、送ってきますよ。ドッキリとはいえ、怖い思いした後に一人で夜道歩くのは不安でしょ?」
高橋クンは、道坂サンを気遣ってるようやけど……、表情は硬い。
「へぇ、このコは置いてくんだ?」
こちらもそれまでずっと黙っていた『雑誌合コン』の彼が、なーこちゃんを指して言った。
……どういうことやねん?
あんたの彼女なら、あんたが連れて帰ったらええことちゃうん?
「……あんたには、カンケーねぇだろ」
高橋クンが、イラついた口調で、『雑誌合コン』の彼に言った。
『関係ない』?
高橋クンが、なーこちゃんを置いていこうが、連れて帰ろうが、『雑誌合コン』の彼には、関係ないだろ、……ってことやな?
「あ……私は平気だから、高橋くん、なーこちゃん送ってあげたら? ほら、彼女若いし、それこそ夜道は危険――」
「道坂さんは、黙ってて」
「…………あ、あたしなら、この人呼ぶから、大丈夫」
なーこちゃんが、携帯の画面を高橋クンに見せた。
「…………わかった」
どうやら、共通の知り合いの名前が表示されていたらしい。
「……じゃ、すんません、お先に失礼します」
「あ……うん、気ぃつけてな」
最後に、『雑誌合コン』の彼をひと睨みして、高橋クンは個室を出た。
道坂サンも、それにばたばたと続く。
……もう、考えるの放棄していいっすかね。
「じゃぁ、あたしも帰ろっかなぁー」
なーこちゃんが、うんっと伸びをして、いつもの調子でしゃべりだした。
「あ、雑誌の取材って、もういいんっすか?」
「あぁ、さっきもう十分……終わりましたよ」
『雑誌合コン』の彼が、ニコリと笑って、ボクらにも挨拶して去っていった。
なんや、ここは付き合うてるわけやないんやな。
「なーこちゃん、もう夜遅いけど、大丈夫?」
「阿部サン、心配してくれるんっすか? 大丈夫っすよ、迎えにきてもらうし」
「迎えにって……誰に?」
なーこちゃんは、顎に手を当てて、目をくりくりっと動かして考えた。
「ん……っと、アニの……友だち?」
「え、お兄ちゃんいるんやったら、お兄ちゃんに迎えにきてもうたらええんと違うの?」
「あぁー、それは……ムリっすよ。ムリムリ。これから大事な話するっぽかったし」
「……は?」
なんか、ついさっきまでお兄ちゃんと話でもしてたかのような言い方やな。
……やっぱり、言ってる意味が良く分からへんのやけど。
ほんと、今思えば、なんですけど。
なーこちゃんとの、この会話で、気づくべきやったんですよ。
なーこちゃんが、ついさっきまで話してた『お兄ちゃん』に。
そう、それが、高橋クンであることに。
ついでに、その『お兄ちゃん』がするっぽかった、という『大事な話』。
それが、プロポーズやってことにも。
その両方……もしくは、どちらかでも気づいていれば。
この後、あんなにこじれることはなかったと思うんです。