哭かない君と
一章
空には三日月昇っていた。


そんな中、一人、少女は倉の中にいた。


「埃っぽいな…。」


呟く声は悲し気でもなく、不安気でもなく、至って普通であった。


「ま、こんなの慣れっこだしね。」


ふふっ、と一人笑う。


倉の中は薄暗く汚い。


空気も淀んでいてむせ返りそうだ。


それを慣れっこという彼女はどうだろう。





───ガチャッ





外から錠前を外す音がしたと思えば古い扉がキィと嫌な音をたてて開いた。


そこには長い髪を靡かせながら、月明かりを背にして立っている美しい男の姿があった。


「………お前に話を聞きたいと局長が言っている。」


その声は低く、目は少女を睨み付けている。


「………怒ってる?」


少女はまるで、子が親にでもするようにそう尋ねた。


邪気の無いその表情に男は一瞬違和感を覚えたが


「怒ってる怒ってないの問題じゃねぇ。それ以前の問題だ。」


そんなことは微塵も感じさせない口調でそう返した。


「そう。」


「局長のお待ちだ。来い。」


少女の縛られた両手を乱暴に掴むと、男は半ば引きずるようにして歩き出した。

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