哭かない君と
「───痛っ!!」


ある一室に通され、少女はそこへ荷物のように投げられた。


もう少し丁寧に扱って欲しいものだと思う。


縛られて使いの悪い手で支えながら身体を起こす。


そんな些細な動作にも関わらず、突き刺さる視線が外れることはない。


きちんと座り直して視線を改めて辺りに当てると、少女を連れてきた男の他に三人の男の姿があった。


その中の一人に、少女のお目当ての相手はいた。


「沖田総司さんっ!」


名前を呼ぶと、彼は困惑したような顔をする。


何故知らない女が自分を知っているのか?


そんな表情だった。


少女は、その『沖田総司さん』に駆け寄ろうとするがそれは阻止された。


「お前は大人しくしてられねぇのか。」


もう言わずとも誰だかわかるだろう。


襟首を掴まれて元の場所に引き摺り戻された。


「勝手に動き回るな。話が進まねぇだろうが。」


「私は別に話すことはない。局長が聞きたいことがあるんじゃないんですか?だけど聞かれないから進まない。それだけのこと。」


私、何か悪いことした?、と笑う。


確かに正論だ。


男はぐっと押黙るが、少女を睨みつけたまま。


空気が悪い。


しかしそれを打ち消すように大柄な男が口を開いた。


「まあ確かにその娘の言うことは合ってるさ。トシ、そんなに威嚇するな。」





───トシ…?


…………もしかして土方歳三?…この人が…?


でも口が悪いって云われと整った顔…やっぱりこの人か…。


少女は自分の持つ知識と目の前の人物の特徴を照らし合わせ、暫く思案し、この男が"土方歳三"であると納得したようだ。


そんな少女の胸中も知らず、大柄な男は質問を始めた。


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