街のパン屋にはあやかしが集う
19時過ぎと言えば夕飯時だろう。大半の人が夕飯を食べていると思われる時間帯に彼は毎日の様にやって来る。

カラランッ。

昔ながらの少しだけ重い押し扉を開け、カウベルを鳴らして入って来たのは、いつものアノ人だ。

「クリームメロンパンは今日は売り切れか…」

来店する度にスーツ姿な彼はボソリと呟き、ノーマルなメロンパンに手に握っているトングを伸ばした。残念そうにトレーの上にメロンパンをポサッと置いて、右隣に並んでいる今が旬のさつまいもパンをトングで掴む。

私がレジ台から眺めていると今度は、「パンダパンも売り切れか…」とまたもやボソリと呟く。

最近は体調が優れない上に憂鬱な事ばかりが身の回りに起きていて落ち込み気味なのだが、綺麗な顔立ちをしている彼がパンを嬉しそうに選んでいる姿に癒されている。

様々な種類のパンを10個以上も吟味してトレーに乗せた後、私が立っているレジ台へとやって来た。

「有難うございます、1550円になります」

いつもは3個位を買って行くんだけどな…、今日は随分と多い。

ビニール製の手袋をはめた手にアルコール除菌スプレーをかけて擦り込んだ後、パンを一つ一つ手早く袋に入れていく。

入れ終わると「はい」と手渡しをされた2000円を受け取り、そそくさとお釣りを渡す。

パンをまとめて入れたビニール袋を渡した時、「クリームメロンパンの取り置きは可能ですか?」と聞かれたので「大丈夫ですよ」と笑顔で答えた。
< 1 / 18 >

この作品をシェア

pagetop