街のパン屋にはあやかしが集う
「こんにちは。皇大郎と貴子に紹介されて買いに来ました。コッペパンのジャムバターが好きなんですが…ありますか?」

「いらっしゃいませ。有りますよ、コッペパンに挟むジャムをこちらから選んで下さいね。お好きな組み合わせでお作り致します」

紹介されて買いに来てくれたのは、可愛らしいお客様だった。少しだけ目がつり上がっている小柄な女の子。おそらく、あやかしなのだろう。

「バターとイチゴ、バターとブルベリ、バターと粒あんの組み合わせで三つお願いします」

「かしこまりました」

女の子に見えるが本当は何歳なんだろうか?コッペパンにバターを塗りながらふと考える。あやかしだとしたら、何百歳とかなのかな?

コッペパンを三つ、お好みに仕上げて袋に入れて手渡すと女の子はニッコリと微笑んだ。笑うと目が更に細くなる女の子は、狐に似ていた。

午後は忙しくパンが飛ぶように売れてしまい、彼が来る19時迄、店を開けている事が困難になってしまった。

クリームメロンパンを二個確保したのだが、彼が来店する前には売り切れてしまい、とうとう18時前には閉店時間となった。

確保したのに彼に渡せないなんて…!

店を閉めてしまうと言う事は、そもそも彼に会えないのと同じなのだ。今日は諦めるしかないか、と思った時に普段着の彼が現れた。

ベージュのチノパンに黒系の綺麗めなロングコートを着ていて、それはそれで似合っている。

今日はもう会えないのだと諦めかけていたのに彼が登場したので、私は思わず、「今日は会えないかと思った…」と口に出してしまった。
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