街のパン屋にはあやかしが集う
「お待たせしました。寒い中、待たせてしまってすみません!」

急いで行きたくて走って来たのだが、来る途中に何かにつまづいて道路上で派手に転んでしまい、両膝からは血が滲んでいた。擦りむいた傷が痛いが私は笑顔を見せる。そんな私の姿を見た彼は立ち上がり、私の目の前に膝まづいてから、私の左膝に右手を充てると目を閉じた。

「……これで傷は癒えたはずです。どうですか?まだ痛みますか?」

「え?…どうしてだろう?全く痛くないです!」

彼が右手を触れた左膝は不思議な事に痛みが無くなった。私の症状を確認した彼は直ぐ様、右膝にも右手を充てると痛みが引いたのだった。

不思議な現象に目を丸くする私。触れられた両膝がポカポカと暖かく感じられる。

「ちょっと失礼!少しだけ我慢して貰えますか?」

彼は突然にも私の事を抱き寄せて、右肩をポンポンと叩いた。

「あっ、あのぉ…」

「……やはり、一筋縄では行かぬようだな」

ボソリと彼は呟き、私の肩から何かを剥がしとり、公園の地面の上に叩きつけたかの様に見えた。あんなにも重苦しかった肩が一瞬にして軽々しくなる。

彼は何者………?

彼から解放された私は後ろ手に回った。何故だか分からないが、不穏な空気が漂っていて恐怖を感じた。思わず、彼の背中を右手で掴んでしまう。

「オマエハ 鬼ノ 生キ残リカ?」

「そうだ。お前は何故、この者に取り憑いた?」

「コイツハ オレがヒカレテ死ニソウニ ナッテイタノニ 見捨テタカラダ。マダ 死ニタクナド 無カッタ」

最初は見えなかったが、今、目の前には巨大な白犬が存在している。巨大な白犬は私達の方向へと今すぐにでも襲って来そうな体制だ。
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