街のパン屋にはあやかしが集う
何の心構えも出来てない私の頭の中に舞い降りてきた言葉。どうしよう…、突然の事に戸惑っている。返す言葉が見つからない。

「…行く行くは仕事を辞めて、父上に弟子入りしたいのですが。貴方とパン屋を継ぐのが私の理想です」

確かに貴方の事は気に入ってはいるが、理想論を語られても頭が余計にパニックになるだけだった。

「……突然そんな事を言われましても。そう言えば、あの女性は奥様か彼女さんではないのですか?」

「あぁ、アレは妹です。私と彼女は鬼と雪女の間に産まれたが、私は鬼の血筋が濃く、彼女は雪女の血筋が濃く出ているんです」

「成程…。彼女が近付いた時にヒンヤリと感じたのはそのせいですか?」

「そうだと思います」

彼と彼女は鬼と雪女の掛け合わせのあやかしらしい。妹の名は"貴子(きこ)"だと教えて貰った。貴子さんは、たかこさんと呼ばれるのが一般的だが、あえて、きこさんにしたらしい。読み方は違えど貴子さんと言う方は国内に沢山いらっしゃるので、あやかしの力を使わなければ人間に溶け込みながら共存していくにはピッタリな名前だと思う。それに色が白くて綺麗な彼女には高貴と言う意味合いが含まれた漢字を使った名前がお似合いだ。

「……貴方の名前をお伺いしてなかったのだが聞いても良いでしょうか?」

「はい。ごめんなさい、自分から名乗らなくて。私は小嶋 桜花(こじま おうか)と言います。桜の花が咲く頃に産まれたので、桜花なんです」

「素敵な名前ですね」
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