幻惑
「ねえ翼君。駅ビルの2階に、アクセサリー屋さんがあるでしょう。そこで、バイトを募集しているの。どう思う?」

と私は聞く。
 
「結花里、本当に働くの?」

翼は驚いた顔で、私を見る。


仕事をしたいと翼に言ったとき、翼の奥さんから電話が入って。

話しはそのままになってしまった。
 
「うん。バイトなら、時間や休みは翼君に合わせられるでしょう。」

私は翼を見つめる。
 
「接客って、立ちっ放しだよ。結花里、大丈夫?」

と翼は言う。
 
「それは平気だよ。ただ、採用になるかどうか。」

と私は不安な顔で翼を見た。
 
「大丈夫でしょう。」

と言って、翼はクスッと笑い
 
「短い時間で、週に三日くらいでもいいなら。やってみる?」

と答えた。
 
「うん。明日、連絡してみる。」

と私が言うと、翼はまた笑う。
 

「何が可笑しいの?」

と頬を膨らませる私の頭を、翼が撫でる。
 
「結花里『いらっしゃいませ』とか言えるの?」

と言って、クスクス笑う。
 
「言えるよ、そのくらい。」

と私も笑う。
 


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