幻惑

「俺が、もっと早く　ちゃんとしていれば結花里に辛い思いをさせないで済んだのに。本当に、ごめんね。」

翼は、私の顔を覗き込んで言う。
　
「ううん。私が弱虫だったの。」

と私は首を振る。

翼は、以前と同じように、愛おしそうに私を見た。
　
「俺も、いい加減だったんだ。結花里と一緒に居られたから。それで安心して。籍なんか、どうでもいいと思っていた。ううん、そう思おうとしていたのかも。」

私が頷くと、
　
「田宮さんに叱られて、目が覚めたよ。結花里をどれだけ苦しめていたかって思うと、取り返しがつかない事をしたって。怖くなった。」

と翼は、悲しそうに私を見た。
　

「翼君、ごめんなさい。私、全部投げ出して来ちゃって。ちゃんとご飯食べていた？」

と私が言うと、翼は目を潤ませて
　
「結花里。」と言った。