幻惑
「奥さんがいるのに、こんな所に居ていいんですか?」

俯いてハイボールを口に運ぶ翼に、私は聞く。
 
「駄目なの?」

翼に聞き返されて、私は一瞬、怯んでしまう。

翼は甘く切ない瞳で、私を見つめたから。
 
「駄目でしょう。女性と二人は。奥さんに誤解されますよ。増渕さんは、ただの営業のつもりでも。」

腹が立っていたはずなのに、私の口調は弱くなる。

「誤解じゃないよ。営業でもないし。」

翼は寂しそうに少し笑った。
 


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