幻惑
「違うんだ。だから、ちゃんと話さないとって思ったんだ。結花里ちゃんは、もう俺にとって、ただのお客さんじゃないから。」


私の心はグルグル回る。

結婚しているくせに、思わせぶりな事を言う翼を、軽蔑しながら。

私は翼の言葉が嬉しかった。

カクテルを一口飲んで、
 

「私を愛人にするの?」


と言い、私は翼を見つめた。

翼は私から目を逸らさない。

真っ直ぐ私を見たまま、翼は静かに首を振った。
 
「そんな事、考えてないよ。結花里ちゃんとは、離婚するまで付き合わない。」

翼の言葉で、また私の心は乱れる。
 
簡単に、離婚を口にする男性を、信じてはいけない。

そう思うけれど。

私の為に離婚するということを、嬉しく思う気持ちが顔を出す。
 
< 29 / 263 >

この作品をシェア

pagetop