幻惑
「増渕さんが、どんなつもりで、私を誘ったのかわからないけれど。私は、不倫するつもり、ないわ。」

私は、冷たく言う。揺れ動く自分を戒めるように。
 
「もちろん。俺も不倫するつもりはない。離婚するまで、待っていてほしいんだ。俺、結花里ちゃんが好きなんだ。」

翼の言葉は、熱くて。

私は頷きたくなる。翼を好きになっていたから。
 
「私、まだ増渕さんのこと、何も知らないのよ。待つとか、そういう関係じゃないでしょう、私達。」

精一杯、冷静な顔をして私は言う。
 

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