幻惑
車の運転席と助手席。間のギアに邪魔されながら。

翼は私の頭を、胸に抱き寄せる。

一瞬驚いたけれど、私はおとなしく翼に従う。

翼の胸に頬を寄せて。翼の鼓動を聞く。
 
私の髪や背中を、優しく撫でる翼。

胸板の厚さも、腕の強さも、全てが心地よくて。

私は、静かに目を閉じた。
 

「可愛い。」と言いながら、翼は私の頭に顔を寄せる。

自然と私の腕も、翼の背を抱く。

初めての抱擁は、ギリギリ抑えていた私達のブレーキを外してしまう。
 


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