幻惑
平日の午後。私の他に、シャンプー台に人はいない。

翼は、私の顔にガーゼを掛けながら、そっと唇に触った。
 
私の体を電流が走る。

翼はそっとガーゼをずらして、私の目を出す。
 

「お湯、熱くないですか。」
 
「はい。丁度良いです。」
 
「力加減は、どうですか。」
 
「大丈夫です。」
 

普通の会話なのに。甘くて熱い。

翼は、ずっと優しい目で、私の目を見ている。
 
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