幻惑
クリスマスムードの街は、カップルでいっぱいだった。

私達は、やっと訪れた、普通の時間が、楽しくて仕方なかった。
 
「結花里、外泊ってできる?」

翼に聞かれて、私は驚いて翼を見つめる。
 
「うん。」と小さく答えると
 
「お正月休みは、どこかに泊まろうか。」

翼の提案に、私は笑顔で頷く。
 
「聡美と出かけるって言う。翼君は、大丈夫?」

私は少し不安になって、翼に聞く。
 
「俺、もう離婚届も渡してあるから。年が明けたら、部屋探しとか、忙しくなるでしょう。今のうちに、ゆっくりしようよ。」

私は、翼の言葉が嬉しくて、
 
「嬉しい。」と言って、翼の腕に寄り添う。
 
「ずーっと結花里のこと、抱いていてあげるね。」

と甘く囁く翼。

このまま、全てが順調に進むと信じていたから。

これからは、甘いだけの時間だと思っていたから。

私も翼も。
 



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