白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集

「あら。
 桃華ちゃん、いらっしゃい。

 なんだぁ。
 龍はもう帰るんだぁ」



「俺はただ
 桃華を送って来ただけだから」


「それなら
 早起きなんかしなきゃよかった。

 龍が来て
 みんなでお花見するって言うから
 5時に起きて唐揚げと春巻きを
 作りまくったのに……」



 小百合さんの言葉を聞いて
 瞳が左右に動き出した龍兄。

 明らかに動揺している。


 たぶん今
 帰ろうか、十環先輩の家に上がろうか
 葛藤しているに違いない。



「龍が家に来るって言うから
 会社も休んだのに」


 そう言い残して
 小百合さんは家の奥へと消えていった。




 小百合さんって
 龍兄に向かって上から目線で
 ズバズバ言うって聞いていたのに。


 まさか小百合さんの口から
 そんな可愛い言葉が飛び出すなんて。


 私も驚いたけど、
 それ以上に龍兄と十環先輩のお母さんが
 驚きすぎて固まっている。


 龍兄なんて
 玄関ドアの取っ手を握ったままだし。


 空気まで固まってしまったかのような
 重苦しい雰囲気。


 私が取り除かなきゃと思った時
 弱々しい龍兄の声が耳に届いた。
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