白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集
「今日は夜、家に誰もいないんだよ。
お店が今日と明日お休みだから。
父さんと龍兄と桃は
TODOMEKIに行っちゃったしさ。
母さんは昔のレディース仲間と
飲み歩くって言ってたし。
虎なんて、彼女っちと
朝までラブラブコースだしさ」
「へ~」
「俺だけ家に一人って。
寂しすぎると思わない?」
「いいじゃないですか?
家で一人なんて気楽で。
それに俺、
今、誰かと離したい気分じゃないんで」
「ほら。
りっちゃんと何かあったでしょ?」
「なんにもないし……」
「ごまかすのが下手なところ。
虎にそっくり。
でもさ、一颯っちはどうするわけ?」
「どうするって何がですか?」
「このお店が閉まったら
りっちゃんがいる家に帰れるの?
それとも、庭にテント張って野宿?
その格好じゃ、寒すぎだよ」
「ファミレスにでも……行くんで……」
「だったら、うちにおいでよ。
フカフカの布団、あるし」
「だから俺は
誰とも話したい気分じゃ……」
「一人でいても
イライラが募っちゃうだけだよ。
こういう時はさ
気分転換が必要じゃん」
「恋都さんといても……
気分転換になる気がしないし……」
「ひどいよ、一颯っち。
そんなこと言われたら
俺のガラスの心が
粉々になっちゃうんだけど」
「ダイヤモンド並みに打たれ強い心の
間違いじゃないですか?」
「ダイヤモンドの心かぁ。
純粋な俺の心にぴったりの言葉。
一颯っち、良いこと言うじゃん!」
「褒めてないし……」
「気分転換。気分転換。
そうだなぁ。
俺の部屋で……刺繍でもしない?」
「は?」