白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集

「六花が着てくれないから……」


「え?」


「俺が中学の時に着ていたベスト。
 着てって俺が頼んでも
 あいつが着てくれないから」


「ベストを着る着ないで
 りっちゃんとケンカしちゃったって
 ことね」


「……はい」


「かわいいケンカだね」


「かわいいとか言われるの
 ムカつくんですけど」


「ごめん、ごめん。
 でも一颯っち。
 ムカつくとか言わないの。
 自分の気持ちまで、暗くなっちゃうよ」


「桃ちゃんは、十環のベストを着て
 高校に行くって言ったのに。
 なんで六花は着ないんだよ!って
 思うじゃないですか」


「一颯っちが、りっちゃんに
 ベストを着て欲しい気持ちもわかるよ。
 でもさ、りっちゃんが着るのを
 渋っちゃう気持ちも、わかるんだよね」


「『兄と付き合っている』って
 高校でばれるのが
 恥ずかしいってことですよね?

 血がつながっているわけじゃないし
 本気で俺のことを好きなら
 そんな周りの目なんて
 気にしなきゃいいのに」



「心無い言葉って
 グサグサ刺さるものだよ。

 俺だって、学生の時
 同級生とから好き放題
 陰で言われてたからね。

 『男のくせに、ロリータなんて』とか
 『情けない』『女っぽい』とかね。

 俺はさ、悪口を言う人たちを
 絶対に見返してやるって思って
 ロリータに没頭していたから
 ごまかせたけど。

 りっちゃんには、そういうものが
 あるわけじゃないでしょ?」


「そうですけど……」

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