触れたい、できない
「_てかさ?なんで敬語なの?」
私は満足行くまで笑ったあと、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
初対面の人に敬語を使うのは良いことだとは思うけど…
傍から見ても、もう私たちは敬語から脱する関係であってもいいと思う。
「……人の話し方にまで文句つける気ですか」
顔もあげずに口を開く万屋。
「えっそういう訳じゃないけど、ただ…なんかこう……そう!気持ち悪い!!」
私はぱっと上げて叫んだ。
そうだ、さっきこいつが使いやがった忌々しい言葉がぴったり!
「超絶毒舌なくせに敬語とか、''違和感''ってやつ!」
私は自慢げに鼻を鳴らす。
どうだい!言い返してやったぜー!
「……人の受け売りをそんな自慢げに言う人、初めて見ました。すごいですね」
「なっ?!」
蔑んだ目で見てくる万屋に私はムッとむくれる。
あーもう腹立つ……!
やっぱり…苦手だ、うん。
「_まぁ…これは癖みたいなもんですけどね」
ふと、万屋がつぶやいた言葉。
でもその時の腹が立っていた私の耳には入ってこなくて。
「え、なんて?!」
バッと顔を上げて聞いてみるも、万屋は首を振った。
「何でもありません」
そう言う万屋は、少し安堵しているようにも見えた。
〜 後悔その1 〜
私はこのとき、ちゃんと聞いておくべきだった。
たとえ、いくらしつこいと思われたって。
この言葉を拾って、踏み込んで、目見て話を聞く。
……それがこの時の私にできていれば…
君は少しでも、楽になれたかもしれないのに。