触れたい、できない
_私は電車内で「先に行ってるね」と蓮にメールを打ち、学校からの最寄り駅を出る。
まあ蓮はメールとか見ないから、あんま意味ないんだけど。
…私は駅から出たあと、キョロキョロと周囲に誰もいないことを確認する。
そして
「記憶を辿ってレッツゴー!」
と拳を突き上げて叫んだ。
よし、不安な気持ちはこれで吹っ飛ばしたし、がんばってこ_
「…紺サン?」
その瞬間、突然後ろから声が聞こえた。
「え?」
その声に、私は上に思いっきりあげていた手を下げ、振り向く。
「…何してんですか」
そこには黒光りする車から降り、奇妙そうにこちらを見る万屋がいた。
え、なんでここに?
「万屋…いつもこんな朝早いの?」
目を丸くする私を横に、車からの運転手に会釈してからこちらに来る万屋。
「いや別に。…貴方こそそんな気合い入れてどこいくんですか」
「え」
…さっきの、見られてた?
っよりによって1番嫌なやつに_
「記憶を辿ってレッツゴーさん?」
「う、うるさい!」
ほらもうこうなる!
私はムッとむくれた。
すると突然、万屋は身を屈め、顔を覗きこんでくる。
何かを見つけたのか、こちらに手を伸ばしてきた。
「…どしたの?」
万屋の行動に、思わず声を発する私。
すると、万屋はハッとしてすぐに手を引っ込めた。
「いえ、パンくずついてたんで…つい」
そう言うと、屈めていた体を起こし、スタスタと歩き出してしまう万屋。
えっパンくず?
私は口元を手で触る。
…あっ…ほんとだ。めっちゃ付いてる…
朝走りながら食べるとかしちゃったから…
_私は先を行く万屋に追いつき、横に並んだ。
「教えてくれてありがと!意外とやさしいじゃん?」
にっと笑って万屋を見ると、
「…は?別に汚いなと思っただけです」
とつぶやき、フンっと顔を逸らしてしまった。
うーん、やっぱり素直じゃないな…