触れたい、できない
「……あー、なんだっけ?私も忘れたっ」
「嘘つけ。目めっちゃ泳いでんぞ」
うう…
なんでこう私はいつもいつも……
こんなの自分から覚えてるって白状してるもんだよ。
それに、蓮の前でなんか嘘つけない。
というか見破られるんだよね…
私は自分のどんくささと蓮の視線に耐えきれず、思わず口を開く。
「あのね、今日の朝…」
もう喋った方が気が楽だ…と思い口から出そうになった言葉。
「…っ、やっぱダメ!!」
私ははそれをすんでのところで飲み込んだ。
だって話そうとすると、朝の万屋が頭を横切るんだもん。
_低い声に、俯く顔。
どうしても、放っておくことが出来ないような脆さがあった。
出会ったばかりの私に事情なんて分かんないけど、自分の隠したい秘密言いふらされていい気持ちする人なんかいないよね…
突然黙り込んだ私に不満を抱いたのか、蓮はより眉間にシワを寄せる。
「…んだよ。俺に言えない2人の秘密ってか?」
「は?!いや別にそんなんじゃな_」
「そーかよ。まあ別にいいけど」
必死に否定するも、蓮は不機嫌そうなままのパンを食べる。
もおぉほんとなんでこう誤解させちゃうの!
ほんとにほんとに違うのに…!
私はうまく回りそうもない口を仕方なく閉じ、パタッと机に倒れた。