触れたい、できない
_もうこうなったら弁当やけ食いして、全部無かったことにしようかな…
なんてぼんやり考えながら、ふと目に入った人影。
ドア付近に、高い影がひとつ。
高い……影………?
「えっ!よ、万屋?!」
私はガタッと立ち上がった。
…廊下側のドアに、腕組みながらもたれかかっている人影。
高い身長とあの黒髪……間違いなく万屋だ。
こんな近くに居たのに今まで気づかずに万屋の話をしてた私って…
改めて自分の不甲斐なさに呆れながら、私は廊下に急いで出ようとした。
_瞬間
……ガシッ
「行くなよ」
……蓮が俯いたまま私の腕をぐっと掴んだ。
「え?だって万屋が…」
「いいから」
その蓮の声に、私はビクッと体を震わす。
_蓮のこんな声、聞いたことない…
少し怒ったような、それでいて寂しそうな何とも言えない声。
私はそれに少したじろいで、踏み出した足を戻す。
「わ、分かった…から離して?」
私は顔の見えない蓮に話しかける。
_でも蓮は手を離してくれなくて。
「え、ちょっとほんとにどうしたの?」
私はどうすることも出来ないまま、廊下の影と様子のおかしい蓮を交互に見た。