触れたい指先、触れられない心
霞さんは、どうして「一度将来を誓った仲だ。一生守るつもりだが」なんて言ったんだろう。
ここから出るまでの関係なら、どうして……
そんなこと、聞けるわけないんだけど。
「窓を割って出るか……?」
「へ?」
突然の提案に驚き、霞さんの方を向く。
霞さんはドアの傍にある窓を見ながら試行錯誤していた。
窓を割る……まぁここは廃墟みたいだし、問題はないだろうけど……
見た感じ窓とはいえ割と高さがある……
「わたし、窓から飛び降りるのムリです……ごめんなさい」
「……仕方ない、受け止めてあげよう」
わたし、何も役に立たないなぁ……
「行くぞ、離れろ!」
霞さんの言葉と共に拳ほどの石が投げられ、強く割られる窓ガラス。
大きな音が鳴り、ガラスは四方に飛び散る。
「大丈夫ですか?!」
「ああ、安全に出られるように残った破片を取り除く。しばらく待っていてくれ」
慣れた手つきで残った破片を処理する霞さん。
この人一体何者なんだろう。一般人ならこんなことテキパキできるはずないよなぁ。
「……慣れてますね」
「俺一人ならこんなガラス無視して出るが……詩音を傷つけるわけにはいかないからな。慣れてなくても丁寧に取り除かなくては」
霞さんの意外な返答に胸が少し締め付けられた。
わたしの事、気遣ってくれてる?
さっきから霞さんの事が分からない。
ここから出るまでの関係なのに「誓いを守る」と言ってくれたり、傷が付かないようにしてくれたり……
どうしてこの人はこんなにも冷たい目をしているのに、優しくてあったかいんだろう。