触れたい指先、触れられない心


 割れた窓から外を覗いてみると、暗い廊下が伸びていた。
 霞さんは身を乗り出して、こちらを向く。


「俺の胸に飛び込むんだ」


 そう言って両手を広げる。
 こんな事になるんだったら、ちゃんとダイエットでもしておけばよかった。


 「お、重くてすみませんっ!!」


 わたしはそう告げると、霞さんの胸に飛び込んだ。
 


 あっ、割と高い……冗談抜きでダイエットしておいた方がよかったやつだ。
 てかこれ、霞さん潰れ……




 ドサッ






「いたっ……。――……っ!?」


 目を開くと、霞さんと視線が重なった。
 目と鼻の距離に、霞さんがいる。
 


 そして伝わってくる霞さんの体温に、ハッと我に返る。




 うそ、わたし霞さんを押し倒して……



「ごめんなさ……」
「急に起き上がるのはよくない。落ち着け」


 そして霞さんは優しくわたしを抱きしめ、背中を撫でた。



「――……ッ!!」



 なっ……
 なんで、なんでこんな優しくするの……



 大人の男性は、なんとも思ってない人にもこんな事するの……?





 霞さん、一体どんな気持ちでわたしの事抱きしめてるんだろう。


 わたしは霞さんに抱きしめられて、正気じゃいられない。
 どうしてだろう……



 元カレに抱きしめられた時だって、こんな気持ちにはならなかったのに。



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