触れたい指先、触れられない心


「詩音!!」


 霞さんは、勢いで倒れたわたしに駆け寄ってくる。
 だけど、サングラス男はまた拳を構えた。


 だめだ、もう立ち上がれない……


 霞さんを傷つけたくないのに……




「逃げて……ください」
「馬鹿か! そんな事できるわけない!」


 霞さんはサングラス男の腹部に強い一蹴を入れた。
 その反動でサングラス男は激しい音を立てて倒れる。




「この女は俺の婚約者だ。傷でもつけてみろ、……殺すぞ」




 冷酷な目で突き刺すように睨む霞さん。
 その言葉に、わたしまでも背筋が凍った。


 本気だ……
 この言葉はきっと、本当に殺す気でいる……。



 この人は一体、普段どんな生活を送っているんだろう……
 何があったらこんな冷酷なことが……



「逃げましょう……! 大丈夫ですか?!」
「何故あのような事をした。俺は隠れていろと……」
「霞さんを傷つけたくなかったんです……そしたら体が勝手に……」


 霞さんはわたしの言葉に、呆れるようにため息をついた。
 

「本当に危なっかしい……次は俺の言う事が聞けるな?」
「……はい」


 わたしの返事を聞くと、霞さんは少し安堵したような表情を見せ、歩き出した。

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