触れたい指先、触れられない心
「ならこの廊下を真っすぐに進め。その後家に戻り、部屋に来い。……よいな?」
「承知した」
「……はい」
馬鹿だ。
これで霞さんとの関係は終わりなのに、ズルい女になればもう少し一緒にいれたかもしれないのに……
でも、わたしのせいで巻き込んでしまったという罪悪感の方が勝ってしまった。
――「もっと一緒にいたい」って言えなかった。
今ならまだ間に合うはずなのに、本当の言葉が出てこない。
「詩音、短いひと時だったが……良い思い出になった」
――そう思うなら、思い出なんかにしないで
「……はい。わたしもです」
「もう会う事もないと思うが、無事でいてくれたらそれで良い」
――それじゃいやだ……ずっとぞばにいて
「ありがとうございます。霞さんも……元気でいて下さい」
少しずつ光が見えてくる。ここを抜けると……
「これで……さよなら、ですね」
「ああ、そうだな」
霞さんがあまりにも冷静すぎて、わたしは涙を堪えるのに精一杯だった。
こんなにつらくて痛いのはわたしだけなんだ……
きっと何を言っても霞さんには届かないし、また迷惑をかけてしまう。
それが分かってるから本当の事は言えなかったんだ。
そして、わたしの気持ちとは裏腹に、明るく暖かな光を放つ出口が目の前に見えた。
――ああ、終わりだ。
「……ッ! ――さようなら……」
霞さんは頷いて、振り向くことなく歩き出した。
離れていくあなたの後ろ姿に
わたしは手を伸ばして、ただただ泣いた。